「笑い」のメカニズム
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<「笑い」のメカニズムとその効能を探る。笑いのメカニズムを科学の目で検証します。>
笑いの驚くべきパワーが次々と明らかに
笑うことは、私たちの健康に大きな影響を与えることをご存じですか? 今から20年ほど前、笑いがまだまだ医学的に解明されていなかった時代。「笑い」や「生きがい」を活用して、ガンや難病の治療効果を高めることはできないのか? 極度なストレスやうつ状態で免疫力が下がると実証されているなら、逆に笑うことで免疫力が上がるのではないか? そんな発想の転換をきっかけに、今日も続く私の研究は始まりました。そして現在、笑いが私たちの健康に多大な好影響を及ぼすことが様々な研究によって明らかになってきています。
笑うことで強くなる、体内の戦士たち
私たちの体内には、とてもユニークな働きを持つたくさんの戦士がいます。それは、リンパ球を中心にしたナチュラルキラー細胞(NK細胞)・T細胞・B細胞・大食細胞など数十種類の細胞たち。お互いが綿密に情報を交換しながらウイルスや細菌などの侵入を撃退しています。そして、SF映画さながらの戦いを繰り広げる戦士たちのパワー源は、私たちが明るく過ごし、大いに笑うことにあるという驚くべき研究結果が出ているのです。つまりキラー細胞をはじめとする多くの細胞は、人が落ち込んだり憂鬱な気分だったりすると働きが低下し、逆に楽しく愉快に過ごしている時は戦う力が強くなるのです。では、元気になった細胞は、どのような健康的効果を与えてくれるのでしょう。近年明らかになった様々な働きを紹介します。
≪ガンを殺すNK細胞が活性化する≫
ガンを破壊するNK細胞
若い人でも、健康な人でも、身体の中では1日約3000~5000個のガン細胞が発生しています。それらのガン細胞を破壊するのがNK細胞。ですから、NK細胞の働きが弱まると発生したガン細胞を殺しきれずにガンが発病します。また、ガンが発病してからも手術や放射線などの治療効果を上げるためにはNK細胞の働きが大きく影響します。
ナチュラル・キラー(NK)細胞が、ガン細胞に食いついた瞬間(左の写真)。NK細胞の攻撃を受けて細胞膜が破られ、死滅したガン細胞は細胞外から流れ込んだ色素で染まっているのがわかります(右の写真)。京都のルイ・パストゥール医学研究センターが撮影に成功したもの。
笑うとNK細胞の働きが活性化します
19名のボランティアの方に協力していただき、漫才、漫談、喜劇などを見て3時間くらい笑っていただいた実験の結果があります。笑う前と笑った後の血液を調べたところ、笑った後ではNK細胞の働きが活発になっていることがわかりました(図2)。またNK細胞活性化は笑い体験の直後に上昇し、その速度はガン治療に使われている代表的な免疫療法の1つであるOK432を注射した時よりも早いものでした。
NK細胞を元気にする笑いのメカニズム
では、笑うとなぜNK細胞が元気になるのでしょう。それにはまず「楽しく笑う」といことが出発点です。笑うと脳の前頭葉という部分に興奮が起きて、それが免疫をコントロールする間脳に伝達されます。そして、間脳が活発に働きはじめ、無数の神経ペプチドという情報伝達物質を作り出します。この物質は、まるで感情を持っているかのようにそれがいい情報なのか悪い情報なのかを判断し、その判断によって自分の性質を変えるのです。楽しい笑いの情報は、善玉ペプチドとして血液やリンパ液を通じて身体の中に流れNK細胞の表面に付着します。それに反応したNK細胞の働きは活性化し、ガンを殺す力が強くなるのです。いわば笑いによって作り出された善玉ペプチドは、NK細胞が戦うための栄養源というわけです。反対に悲しみやストレスは悪玉ペプチドを作り出しNK細胞の働きを弱めてしまいます。
≪リウマチ等の免疫疾患も改善する≫
笑い体験後の血液分析では、免疫のバランスがとても良くなったというデータも出ています。免疫の働きをするリンパ球はCDという略号を持ち40種の番号で分類されていますが、その中には、攻撃突進役と制御役の両方が存在します。例えばエイズは免疫力がなくなる病気。エイズウイルスは攻撃役のCD4を破壊してしまうのです。また制御役のCD8が強まると細菌やウイルスを殺すばかりか自分自身の身体まで攻撃し、結果起こるのがリウマチや膠原病など自己免疫疾患と呼ばれる病気です。日本医科大学リウマチ科の吉野教授が26名のリウマチ患者に1時間落語を聞いてもらった実験では、リウマチ悪化をもたらす物質が軒並み減っており、多くの人が関節の痛みも和らいだという結果が出ています。
≪笑顔を作るだけでも効果がある≫
職場など大声で笑える状況にないときは、笑顔を作るだけでも効果はあります。リンパ球の攻撃・制御という相反する2つの性質バランスに変化はないものの、ガンを殺すNK細胞は活性化するということは明らかになっています。笑顔も笑いと同様、人間関係をスムーズにするばかりでなく、健康づくりにも一役かっているというわけです。
ある研究によると、1人の人が1日のうちに「楽しいと感じて声に出して笑った、その笑いに費やす時間」は、男女平均で約23秒だそうです。23秒/24時間…。この数字を多いと思うか少ないと思うかは別として、笑顔の持つ「リフレッシュ効果」には注目したい。
毎朝3秒。洗面所の鏡に写った自分の顔を見ながら「ニコッ」とする。で、3秒静止。たったこれだけで心がリフレッシュするという。この3秒リフレッシュを意識していれば、渋滞の車の中でルームミラーに自分の顔を映して「ニコッ」。職場でトイレに行って手を洗いながら鏡に向かって「ニッコリ」。心がけることでその時々に少しずつ心がリフレッシュされる。
時として精神的に笑える状態じゃないときがありますが、そんなときこそ、無理にでも自分のためだけに笑顔を作ってみてはいかがでしょうか。
記事引用サイト:http://ww8.tiki.ne.jp/~shichifuku/NK/