ロナ
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<読み聞かせの世界>①
.~そこから見えてくること~(Part1)
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【 はじめに 】
「読み聞かせ」という言葉は、子どもと関わる大人なら、とてもよく耳にする言葉ではないでしょうか。図書館や児童館では定期的に「おはなし会」が開催されますし、幼児サークルでもプログラムの1つに入っていたりします。小学校では、保護者のボランティアを募って、月に1回の読み聞かせをする学校がとても多いと聞いています。
私が読み聞かせをするようになってから、早いもので10年経ちました。きっかけは、幼児サークルをやっている友人から依頼されたことです。昔、私が演技の勉強していたことを知っていて、こういうことは得意だろうと頼んできたのです。私も、絵本を読むことぐらい簡単だろう思って、気軽に引き受けました。ところが、この読み聞かせという世界は、知れば知るほど奥が深くて、楽しくて、難しくて、私にとって魔法のような世界でした。演劇から遠のいて10年以上経っていたし、子育ての不安から育児書ばかり読んでいた当時の私は、あっという間に、その魔法にかかってしまいました。もう楽しくて、楽しくて。まるで水を得た魚とはこのことです。
読み聞かせのサークルに入って活発に活動していた時は、仲間とともに人形劇やペープサート、パネルシアターなどもやりました。演技の勉強が表現することのベースになり、このサークルに在籍していたときの仲間との切磋琢磨が、読み聞かせをする上での重要なベースとなりました。引越しを機にそのサークルを抜けて、今は特にそのようなグループには所属していませんが、癒しの場としての「おはなし会」を定期的に開きたいと思いながら、小学校のボランティアで読み聞かせを続けています。
読み聞かせの現場で感じること、見えてくるもの。それはいろいろなことが重なって複雑なもののように感じます。私自身、読み聞かせでたくさんの子ども達と出会い、その中で自分の子育ての視点が変わってきました。自分のスタンスが正しいのかどうか、迷うことも多いです。それでも、一生懸命頑張っている親、特におかあさん、そして子ども達に「そんなに怒らなくても大丈夫」、「そんなにきちんとしなくても大丈夫」、そんな言葉を呟きたくなるときがあります。息子がこれを読んだら「僕にはあんなに怒っていたのに」と呆れるでしょうが。
ロベルトさんから「子どもに関するテキストを」と言われたとき、私は小さな声を上げることにしました。私は、主張するつもりはありません。ただ、少しでも子ども達の笑顔が増えたらいいな、と思うのです。そのために必要なのは、やっぱり大人が情報に振り回されずに、目の前にいる子どもとしっかり向き合っていく、ということだと思います。
イルカさんのセミナーに参加したとき、「マーケティングに弱い日本人」という話を聞きました。マーケティングやメディアの言葉に踊らされ、本質を見ることもなく取り入れてしまう。それが大勢の人に認知されていれば、正しいと安心して信じてしまう弱さ。そのことが問題だといっているのではないでしょうか。
イルカさんの話を踏まえて、1冊の絵本を紹介したいと思います。
この絵本は、子どもに読ませると「親の言うことを聞くようになる」ということで、何万部も売れたそうです。確かに、何軒かの書店の絵本のコーナーでは、目立つ場所に置かれていました。私は好奇心から、その絵本を手にとって2ページほど見ましたが、手が勝手に絵本を閉じ、元の場所に戻していました。それきり、その絵本のことは忘れました。ですが、このテキストを書きながら、ふと思い出したのです。なぜあの時、本を閉じてしまったのか。自分の心に問いかけました。
私はその絵本を読んだわけではないので、内容について批評をすることはできません。ただ、「なぜ読まなかったのか」と自分の心に問いかけたとき、悲しくて、悔しくて涙が止まりませんでした。なぜこんな本が出版されるのか。なぜ売れるのか。この本を読んだ子ども達は、どんな気持ちで親の言うことを聞くようになるのか。子どもが言うことを聞くこと、それだけで満足して「クチコミ」で広める大人達。センセーショナルに取り上げるメディア。本当に悲しいです。
悲しい現実ですが、このような絵本が版を重ねる一方で、大切な思いとともに出版された本が、売り上げ部数も伸びずに絶版となるのです。これ以外にも、確実に売れるような「マーケティングしやすい」絵本もよく見られます。
本来、絵本の読み聞かせは癒しの時間です。読んだあとでほっとしたり、主人公を思って涙したり、うきうきと楽しい気分になったり。それが心を育てるのではないでしょうか。
私たちは、もっと考えなければならないと思います。マーケティングやクチコミを鵜呑みにするということは、自分で判断しないということです。自分で判断しなければ楽ですし、責任も負いません。それは恐ろしいことだと思います。今、自分で判断しないということは、自分の未来が、他人の意図のままに操られてしまうのです。なぜならば、自分の未来は、今の自分の積み重ねだからです。
どうぞ、愛の溢れる絵本で、読み聞かせを親子の癒しの時間にしてください。
【 絵本の読み聞かせ 】
ところで、あなたは、子どもの頃に好きだった絵本を覚えていますか?
最近は、たくさんの絵本や児童書が出版されていますが、その多くが重版されることも無く、絶版になっていきます。ですが、うれしいことに、私が子どもの頃に好きだった本は、今でも書店の絵本コーナーに並んでいます。「モチモチの木」、「ごんぎつね」、「かたあしダチョウのエルフ」。それに児童書の「ピーターパン」、「ジェインのもうふ」。ご存知の方も多いでしょう。これが私のベスト5です。それぞれの本について語り始めると長くなってしまうので、ここでは割愛しますが、これらの本は、今でも私の心を優しく、暖かく、切なく包み込んでくれます。
絵本と一口に言っても、幼児向けのものから、内容的には、大人に読んでもらいたいと思うようなものまで様々です。それに自分の子どもに読むのと複数の子ども達に読むのでは、自然と選ぶ本は変わります。それでは、それぞれの場合について少し詳しく話したいと思います。
《親子で楽しむ》
親が初めて読み聞かせをしたいと思う時。いったいどの絵本を選んだらいいのかわからない、と迷ってしまうのも仕方がありません。図書館にしろ、書店にしろ、途方に暮れてしまうほどの絵本で溢れているのですから。初めてのときは、まるで迷路に迷い込んだような気分になると思います。
何でもいいのです。こんな言い方をしたら語弊があるかもしれませんが、親が我が子に読むならば、あまり考えすぎないで、好きな本にすればいいのです。「絵の感じが好き」とか「話の内容が好き」とか。「この本が好き」という気持ち、大切にしてください。ただ純粋に楽しむのです。絵本でしつけをしようとか、絵本でいい子に育てようなんて、考える必要はありません。読み聞かせには、いろいろな良い効果があるといいますが、その原動力となるのは、楽しい気分だと思いませんか?どんなに素晴らしい絵本でも、自分が好きでなければその本の素晴らしさは伝わりませんし、何より楽しくありません。読んでいる人が楽しくないのに、聞いている子どもが楽しいわけがありませんよね。
私もこんな経験があります。
その絵本は、長年多くの人々に読み継がれてきていて、専門家の評価もとても高いものです。そういう絵本だったので、パラパラッと絵だけ見て買いました。家に帰ってさっそく読んでみると、なんだかしっくりこないのです。何度読んでも、なんでこれが「よい絵本」として推奨されているのか理解できません。もしかして自分の感覚がおかしいのかしら、とまで思いました。そんな気持ちのまま、子どもに読み聞かせをしたのですから、案の定、反応なしです。結局、その本はそれきり、子どもから選ばれない本となりました。「なぜだろう」と思って読んでいるのですから、聞いているほうも「よくわからない」となるのです。
読み聞かせをしている友人達と話したときに知りましたが、みんなそれぞれ、納得できない本はあるようです。自分の好きな本、しっくりこない本についていろいろ話しましたが、それはまるで10代の頃にタレントの好き嫌いを話しているみたいでした。歌にたとえることもできますね。好きな歌は、歌詞やメロディーの中に、胸に響くものがあるから好きになるのだと思います。絵本も同じです。
それとは逆に「これは面白い」と思って読んだ本は、やはり子どもから何度もリクエストされます。私が楽しみすぎて、子どもが引いてしまうことも時々ありましたが。
それから、子どもが選んだ本も、大切に心を込めて読んでください。大人の目から見たら「こんな本・・・」と思うものを選ぶかもしれません。それならそれで、どこが好きなのか聞いてみたらどうでしょう。上手に説明できないかもしれませんが、きっと一生懸命教えてくれます。それは、大人にとっては気がつかないような、小さなことだったりします。こんなところが好きなんだ・・・と、その細やかな思いに感動することは、よくあることです。それから、子どもは同じ本を何度もリクエストしてきますが、心の中で「また、この本・・・」と思っても、にっこり笑って、ぜひ応えてくださいね。
絵本選びについては、いろいろな意見がありますが、私からも1つの方法をお伝えしたいと思います。
時間にゆとりがある時に、図書館に行って適当に手にとって見てください。きっと一緒に連れて行った子どもも、自分で好きに本を選ぶでしょう。いろいろ読んでみて、なんとなく気に入った本を何冊か借りて、親子で楽しんでみてください。「読み聞かせなければ」などと肩肘張らずに、自分も子どもに戻って、平和な絵本の世界にゆったり浸ってみてください。そして、子どもが読んで欲しいと何度もせがむ本があったら、その本はぜひ買ってください。何冊も買う必要はありません。子どもの様子を見ながら、少しずつ買い足していけばいいのです。自分の本なら、本を破いたり、書き込みしたりしても安心です。図書館の本は公共のものですから、やはりこのようなことには注意しなければなりません。子どもが小さいうちは、親のストレスにつながります。そういうこともあり、子どもが好きになった本は購入をお勧めします。
0歳児のような赤ちゃんには何がお勧めなのか。かじっても大丈夫な本がお勧めです。何しろ、何でも口に入れてしまいますから。よだれもすごいですしね。
一般的には「いないいないばあ」がお勧めだとされています。顔を隠していた動物が「ばあ」と顔を見せる、その変化と繰り返しのリズムが特徴です。赤ちゃん用としてはお手本のような本です。
ですが、私自身、遠い記憶をたどってみましたが、息子が0歳児の時、読み聞かせをしていませんでした。その代わりに、歌ばっかり歌っていました。昼間は自分の好きな歌を歌いながら子どもの手を動かして躍らせ、寝るときは抱っこしながら童謡とジャズです。不安で育児書を読んでいる割には、いい加減なことをしていました。
前に、何かで読みましたが、赤ちゃんの視覚は他の器官より発達が遅いので、絵本はハッキリとした絵のものを選びましょう、とありました。確かにそうなのかもしれません。反対に、最初に発達するのは聴覚だそうです。胎児の頃に、お腹の中で親の声を聞いているといいますし、私も出産前に「たくさん話しかけましょう」と産婦人科医の先生から説明を受けました。それを思うと、赤ちゃんの頃はハッキリした絵本にこだわることはなく、やさしく話しかけられる本を選べばいいのではないでしょうか。
もしもあなたが本好きでなければ、無理に読み聞かせをしなくてもいいと思います。絵本は親子のスキンシップのツールであって、子どもを賢くする万能薬ではありません。世の中には「脳を育てる・・・」という売り文句のついた本や絵本が、たくさん出回っています。今の日本では、何でもかんでも「効率的」なことが最重要課題のように取り上げられている気がします。でも、本当は「手間をかける」「丁寧」ということに重点を置く時代になってきていると思います。無駄に時間をかけることではなく、手をかけなければならないところに「効率」を持ち込まないということです。
私が言うのも変ですが、世の中読み聞かせブームがずっと続いていて、よい影響についていろいろ言われています。本当にそうなのでしょうか?何度もいいますが、「子どもに読み聞かせをしなければ」と、わざわざ自分にプレッシャーをかけて苦しむ必要はありません。情報にがんじがらめに縛られないでください。それよりも、もっと自分の好きなジャンルで子どもと接点を持つとか、子どもの好きなことを応援する方が、よっぽど将来に良い影響を与えるでしょう。
子どもとの時間を共有する手段は、読み聞かせだけではないのですから。
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記事ご提供:ロナの小部屋