ロナ
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<読み聞かせの世界>①
.~そこから見えてくること~(Part3)
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【語り聞かせ・おはなし】
「絵本の読み聞かせ」は、当たり前のことですが、絵を見せながら読んで聞かせます。では、「おはなし」とは何か。「語り(かたり)」とか「素話(すばなし)」とか「ストーリーテリング」という言い方もしますが、物語を語って聞かせることです。
特徴を挙げてみますと、
①本は使いません。ですから、絵もありません。
②語り手は、物語を全部覚えて、1人で語ります。
③身振り手振りはほとんど無く、語り手はじっとしています。
こんなところでしょうか。
昔の日本では、冬の農閑期に、おじいさんやおばあさんが囲炉裏端で手仕事をしながら、自分が子どもの頃に聞いた「おはなし」を孫に語って聞かせていました。それをイメージするとわかりやすいと思います。話としては「昔話」や「童話」などが、主に語られています。
さて、おはなしの特徴は先ほど箇条書きにしました。その中で、特に大きな違いとして「絵」が無いことを挙げたいと思います。絵が無いということは、聞き手にとって結構影響は大きいのです。聞き手は、語り手のはなしにじっと耳を澄まして、自分の中に絵を描くのです。「おはなし」を楽しむためには、この変換する力が必要になります。その変換力とは、想像力です。「おはなし」をたくさん体験すると、この想像力がとても養われます。それは、おとなになってからも無くならない、素晴らしい財産になります。
もちろん語り手も想像力が必要です。文章との相性もありますが、10分ぐらいのものであれば、完全に覚えるのに3週間ぐらいはかかります。
この忙しい東京に住み、あわただしい毎日に追われながら、苦労して時間をかけて物語を覚える。今の日本では価値が無いと思われている、非効率な世界です。「すごいよね。でも私には無理、時間無いし」と、よく言われます。だから「おはなし」のCDやDVDが、効率的に販売されているのです。私も、それらの媒体があれば「おはなし会」は必要なくなるのでは・・・と、考えたことがありました。でもその疑問に対して、詩人の谷川俊太郎さんが、本の中でハッキリと答えてくれました。「語りというのは、単に声だけではなく、全身で伝えていくものだ」と。また、昔話の研究では第一人者の小澤俊夫さんは「人間の生の声というのは、感動をもたらすのです」とも言っています。この言葉にとても勇気をもらいました。一期一会という言葉がありますが、語り手も聞き手も、その一瞬の空間を共有しています。その空間に、私の体の一部となった物語が、私の肉声で動き出すのです。こんなに素敵なことって、そうあるものじゃありません。
もう1つ「おはなし」の魅力を紹介したいと思います。目で読む文章と耳から聞く文章は、同じ文章でも印象がまったく違います。つい最近、こんなことがありました。グリム童話の1つで、本で読んだとき「なんだこの話」と、とても否定的な感想をもった物語がありました。ところが、その話をたまたま「おはなし会」で聞いたのです。ストーリーも知っているし、ひどい話だと思っていたのに、思わず噴出して笑ってしまいました。語り手の上手もありますが、目で読むことと耳で聞くことの違いを、本当に実感しました。
さあ、「おはなし」を聞きに行ってみたいと思ったでしょう?
思った方にも思わなかった方にも、私の経験を踏まえたアドバイスです。
どうか「おはなし会」に2~3回参加してから、好きか嫌いかを判断してください。
私は、年に数回「おはなし」を聞きに行きます。初めて行ったときのことは、よく覚えています。「おはなし」をじっと聞くことに緊張して、緊張のあまり「おはなし」をよく覚えていない自分を、覚えているのです。そうなのです。初めて「おはなし」を聞く時、ちょっと緊張するのです。本が無いので、視線をどこにしたらいいのか悩んだり、しんと静まった中で、お腹の虫が騒ぎ出すのをこらえたり。雑念ばかりが頭に浮かんでくるのです。よく考えたら、初めてイルカさんのセミナーで瞑想したときと同じですね。それでも、日常から少し離れた空間にいた心地よさは感じました。それからは、機会を見つけては楽しんでいます。定期的に「おはなし」を楽しむこと、楽しむときは忙しい自分を追い払ってしまうこと。これは、とても大切です。
2012年はグリム童話誕生200周年でした。日本各地でグリム童話が語られました。シンデレラは3回舞踏会に行き、白雪姫は3回生き返ったことを知っていますか?私は知りませんでした。白雪姫のことは「おはなし会」で知り、シンデレラのことは本で知りました。シンデレラには、魔法使いのおばあさんは出てこないのです。
先ほども紹介しましたが、小澤俊夫さんの本によれば、残酷な場面だからとか、ロマンチックじゃないからという理由だけで、勝手に話を作り替えてしまうことはとても危険な行為で、物語が伝えてきていたメッセージを失ってしまうことだそうです。グリム童話に限らず、長い年月をかけて今に伝わっている「昔話」や「童話」には、生きていくためのパワーが溢れています。文字や本が普及していない時代、耳で聞いたお話は楽しいだけでなく、知恵や勇気を持って生き抜くことを伝えています。もちろん、聞き手に対する限りない愛情も。近年になって、昔話や童話に対して、子どもに与えるには相応しくない内容というおとなの指摘が増えているそうです。子どもの感性はおとなとは違うこと。そのことに気づかず、おとなの感性を押し付けているのです。
昔話を読んでいると、昔の日本人からメッセージをもらっているように感じるときがあります。「自然とともに生きていこう」「生き抜いていくことが大事だ」。その他にも、いろいろな声が聞こえてくるような気がします。現在の日本にこそ必要なメッセージではないでしょうか。
「おはなし」を語っていきたいという自分の思い。今まで脈々と続いてきた文化としての「おはなし」。そういった様々なものを全部含めて、たくさんの子ども達やおとなの方々と、ゆったりとした楽しい時間を共有していくことを、私は目指しています。
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記事ご提供:ロナの小部屋